- 三月のごあいさつ
この時期、我が庭の片隅にひょっこりと姿を見せる蕗のとう、今年は不作で2個
つれあいと丁度一つづつ、朝の味噌汁に刻み入れ、舌鼓を打った
蕗味噌もいいし、天ぷらも好きだけど
「春だねー」と思えるのはやっぱり味噌汁に入れた時のほろ苦い風味が一番食べ終えた椀を洗いながら外の景色に目をやるとメジロが椿の枝を忙しそうに飛び回っている
「あれ〜、水の冷たさも変わった。」
身体を丸めながら台所に立った先月とは格段に違う
ボールに水を流し葉物野菜を一枚、一枚丁寧に洗う
水が迸り、ほうれん草の葉が小松菜の葉が、嬉しそう…朝の日差しを浴びた白いタイル壁に木製のキッチンツールが爽やかだ
若い頃は金属製のものもあったけど今は断然木製が好き
ホロホロと煮崩れしやすい煮物を木ベラでざっくり混ぜるし、野菜を蒸すのももっぱら蒸篭
いつのまにか湯気のたち加減で蒸し具合も分かるようになった春は何やら台所まで賑やかで楽しい
北千住・萬器では3月16日から台所をイメージした使い心地のよい道具の展示が始まります
萬器の視点で選んだモノをみてみませんか
久保田真弓
Story
寄稿
萬器三十周年に添えて
土と火と水、そして手技。器は、自然と人間の接合点で生まれる表象である。その意味や価値を無言のうちに語りかけてくるから、私たちは器という存在に惹かれるのかもしれない。
あえて「器」と書いたのは、このたび三十周年を迎えた「萬器」の名前にちなんでのこと。もちろん、「器」は、工芸から生み出されるすべてのものに置き換えられる。今日まで三十年の長きに亘り、「萬器」が扱ってきた表象のかたちは数限りない。それらひとつひとつが誰かの手に渡り、親しく使われ、愛されながら、この世界のあちこちに点在する様子は何かに似てはいないか。無数に散らばる星々を線で結んだとき、まなうらに浮かび上がる図形。それは私に星座を想起させる。
思えば、「萬器」は、歳月と空間をつうじてものとひとを交差させ、繋ぎ合わせながら拡張する役割を任じている。着々と、黙々と。これもまた創出の表現である。
平松洋子 Yoko Hiramatsu
作家、エッセイスト。東京女子大学文理学部社会学科卒業。2006年『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞、2012年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、2022年「『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。『食べる私』『日本のすごい味』『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』など著書多数。